映画「1999年の夏休み」を観て。萩尾望都の漫画『トーマの心臓』が原作。カルト的な人気の映画


 1988年製作の青春サスペンス・ミステリー映画です。萩尾望都の漫画『トーマの心臓』を改作した内容です。監督は金子修介。出演は宮島依里、大寶智子、中野みゆき、水原里絵(後の深津絵里)の4人だけです。深津絵里の映画デビュー作としても知られています。カルト的な人気の映画で、出演する4人の少年役を女性が演じて、後から声優が声をあてています。近未来を舞台にしています。

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物語の舞台は、山深い場所に建つ全寮制の男子校(中学)です。みんなが寝静まる中、悠(宮島依里)は和彦(大寶智子)への想いを手紙に書き、和彦の部屋の前に手紙を置くと、真夜中の森へ行き、湖のほとりの崖から飛び降ります。しかし遺体は上がりませんでした。夏休みに入り、教師や他の生徒が帰省した寮に、帰省しない3人の少年だけが残されます。和彦と直人(中野みゆき)と則夫(水原里絵。後の深津絵里)です。和彦と直人は3年生で、則夫は2年生です。和彦は寮長を務めていて、美少年で成績も優秀で、みんなから好かれています。しかしやや神経質で、自己否定感が強いです。ある事件(悠の自殺)のせいで心を閉ざしていて、人を愛さない少年でした。直人は和彦と同じ部屋で、面倒見が良く大人びています。じつは和彦に密かに想いを寄せていますが、和彦は気づきません。いっぽう則夫は末っ子的存在で、子どもっぽいです。和彦たち上級生とは距離を置いています。優しい直人が好きで、直人に想いを寄せられる和彦を嫌っていました。

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悠がいなくなって3ヶ月が経過します。悠から想いを寄せられていた和彦は、沈痛の思いで日々を送っていました。直人は和彦に寄り添いますが、下級生の則夫は輪の中に入れず、二人を冷ややかな目で見ていました。ある日、寮に突然の訪問者が現れます。それは、2学期から転入してくる予定の少年・薫(宮島依里。二役)でした。薫を見た和彦たちは驚きます。薫の姿は悠とそっくりで、生まれ変わりかと思うほどでした。しかし悠は大人しく繊細な性格でしたが、薫は悠と対照的で強気でわんぱくな性格でした。和彦たちの間に、不穏な空気が流れて、ことに和彦は薫に拒否的な態度を取ります。直人も薫に不信感を抱きます。いっぽう薫は訳もわからず「悠なんて知らない」と言って、和彦たちの歓迎しない態度に腹を立てます。しかし則夫だけは、気さくな薫と親しくなります。薫は偶然に、かつて悠が使っていた部屋を選びます。部屋から音楽の好みまで悠と一緒の薫に、則夫は恐怖を感じます。転入後、薫は日々のタイムテーブルに従わずに、森へ遊びに行ってしまいます。和彦は薫のわんぱくさに怒ります。和彦は薫の後を追います。薫に「おまえが悠を殺したのか」と問われて、和彦は薫と殴り合いになります。崖まで逃げた薫は足を滑らせますが、和彦に助けられます。

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夜おそく、和彦は夢の中で悠の幻を見て呼吸困難に陥ります。焦った直人は、人工呼吸で和彦の呼吸を戻させます。静かに眠る和彦に安心して、そっとキスをします。覗き見していた則夫は、二人の仲睦まじさを目にして狼狽します。起きていた薫は、さみしげな則夫を自分の部屋に入れてやります。薫に心を許した則夫は、悠と和彦の話を聞かせます。悠の気持ちに気づいていたのに、冷たく突き放した和彦を、則夫は理解出来ずにいました。いっぽう和彦は、生意気な薫に徐々に好意を抱いていきます。直人は和彦の気持ちが自分から離れて行くことを案じます。薫は離れ離れに暮らしている母親に電話します(実は薫の独り言)。薫は母親を愛しながらも、彼女の再婚には反対していました。則夫は薫と仲良くなりながらも、悠とは違う振る舞いをする薫にショックを受けます。則夫は薫が悠の生まれ変わりだと信じ込んでいたのでした。いっぽう薫は、自分が悠に重ねられていることに、徐々に耐えられなくなっていきます。

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和彦は薫と二人きりになった機会に、薫に心の中の想いを吐き出します。和彦は自己否定が強く自分自身を愛せないのに、自分を慕ってくる悠の気持ちを到底受け入れられませんでした。じっと聞いていた薫は和彦に「殻に閉じこもらず悠を許してやれ」と言います。薫は徐々に悠に共感するようになり、悠の気持ちが解かるような気がしていました。しかし混乱した和彦は、薫に悠を見て、とっさに首を絞めます。薫は和彦に「会いたくても、もう会えないんだ」と諭します。それを聞いた和彦は、堰を切ったように泣き出します。ある日、則夫は直人から、薫の母親の訃報を聞きます。和彦は薫と一緒に列車に乗り込みます。薫の母親は画家で、アトリエには多くのキャンバスが並んでいました。悲しみに暮れる薫に、和彦は優しく声をかけます。和彦は、薫が母親との思い出話を語るのをじっと聞いていました。そして和彦の両親は、原子力事故で死んだことを明かします。心を通わせた二人は抱き合います。薫は自分が悠であり、和彦を罰するために現れたのだと語ります。

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心が通じ合った薫と和彦は寮に戻ってきます。しかし則夫が姿を消していました。最悪の結果を予想して、薫たちは必死で則夫を探します。則夫は湖のほとりの岩陰で雨をしのいでいました。予想が外れたことに、上級生たちは安心します。則夫の発案で、夜みんなで湖のほとりで花火をします。来年の夏、和彦たちは卒業して寮にはいない。その事を則夫にはたまらなく寂しく感じました。ある日、薫は色褪せた紙きれを拾います。それは悠が和彦に残したラブレターでした。「たとえ死んでも、和彦が自分のことを憶えているのなら、この身体は失われても構わない」とつづられていました。薫は悠の自殺の真相を知り、涙を流します。いっぽう直人は、和彦の親友で居ながら、激しい恋愛感情をずっと胸に隠していました。悠が死んだ時、直人は和彦の目には自分だけしか映らない、と喜びました。しかし薫が現れて事態が変わります。直人は薫=悠に、今度こそ死ねと脅します。その場所は、悠が飛び込んだ崖でした。そこに和彦がやってきて、薫は助かります。直人の想いに気ずかない和彦に、薫は怒りを露にしますが、和彦は薫に好きだと告白します。薫は和彦に、自分をどれくらい好きかと尋ねます。二人はキスを交わします。薫は「僕は悠だ」と正体を明かします。

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薫=悠は、和彦を許せずに名前を変えて寮に現れたのでした。和彦はどうしたら許してもらえるかと薫に聞きますが、悠は一緒に死んでくれれば許すと言います。和彦は薫の思いを聞き入れます。「美しい子供のまま、何度も生まれ変わろう」と薫は和彦を抱きしめます。二人は抱き合ったまま、崖の上から飛び降ります。則夫はボートを漕いで、二人を救出しようとしました。結局、和彦は助かりますが、薫は湖の底に沈みます。再び平穏な日常が戻ります。ある日一人の少年が、学園の近くの駅に降り立ち、和彦たちと会います。彼は容姿こそ悠や薫にそっくりでしたが、全くの別人でした。しかしなぜか和彦のことは良く知っていて、悠のか弱さとも薫の純粋さとも違う、柔らかな微笑を浮かべていました。

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和彦は「私がまだ何も知らなかったあの夏休み。世界がそれまでとは全く違って見えるようになった。あの年の夏休み。まるでまだ昨日のことのような気がしてならない」と回想します。

とにかく中村由利子さんの奏でる音楽が素晴らしく、美しいピアノの旋律でした。日本だかヨーロッパだか分からない閉鎖空間で、4人だけで、20世紀か21世紀か分からない1999年に、少女だか少年だか分からない俳優が、子供だか大人だか分からない少年を演じているのが、とても不思議で耽美的で倒錯的で、その世界感に魅了されました。過去だか未来だか分からない小道具も出てきて、主人公が存在してるのかいないのか分からない感じで、独特の魔力に引き込まれました。唯一、深津理恵だけが「少女」らしく映っていました。

いまは無き、鹿島鉄道と坂戸駅が出てくるのが、個人的には良かったです。昔友人が、この映画のビデオテープを薦めて貸してくれたことを思い出しました☆

※夏休み期間ではありませんが、実際に1999年9月30日に、茨城県東海村で2人が死亡した、当時としては国内最悪の原子力災害である「JCO臨界事故」が起きています(ちなみに、劇中に登場する坂戸駅から臨界事故が起きたJCOまでは、約36キロしか離れていません)。

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坂戸駅
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坂戸駅(映画の冒頭シーン。※左下の原発マークに注目)

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