映画「恋する惑星」を観て。フェイ・ウォンの出世作。重慶マンションを舞台に恋愛未満の男女を描く
1994年の香港映画です(原題は重慶森林, Chungking Express)。監督はウォン・カーウァイ。主演はトニー・レオン、金城武、フェイ・ウォンです。まだ無名の金城武やフェイ・ウォンを有名にした作品です。香港の九龍、ネイザンロードに面する雑居ビル・重慶大厦(チョンキン・マンション)を舞台に、2組のすれ違う男女の恋愛模様をスタイリッシュに描いています。

認識番号223号のモウ刑事(金城武)は、捜査中だった犯人を取り逃がした後、謎の金髪の女(逃亡中の麻薬密売ディーラーの女(ブリジット・リン)とすれ違います。モウは「彼女との距離は0.1ミリ。57時間後、僕は彼女に恋をした」と感じます。麻薬密売ディーラーの女は、インド系の移民男性数名をブローカーとして雇います。いろいろなものに麻薬を隠して、売人との取引のために空港へ行きます。しかし女がチケットカウンターで手続きをしている時に、雇ったブローカーたちはどこかへ行ってしまいます。女はインド人街に戻って、ブローカーたちを探しますが見つかりません。女は隠し持っていた拳銃を持ち出して、ブローカーたちを紹介したインド人の娘を誘拐して、居場所を教えるように脅迫します。娘は父親に保護されます。女はインド人が銃を向けていることに気づき、銃で応戦し何人かを撃ち殺して逃げます。

いっぽう、モウは5年間付き合った恋人にフラれます。恋人の好物だったパイナップル缶(賞味期限が近いものを30個)買い集めます。恋人への未練を断ち切るつもりで、モウはパイナップル缶30個を全て食べ尽くしました。失恋に打ちひしがれたモウは、一緒に飲む相手を探すために知り合いに電話をかけまくりますが、相手になってくれる人はいません。モウは仕方なく独りでバーに行って酒を飲みます。すると例の金髪女が入店してきます。モウは彼女と仲良くなろうと必死で話しかけますが(広東語・北京語・英語・日本語で)、一晩中動き回っていた女は疲れ切っていて、モウと会話する気にはなりません。やがて閉店時間になり「休みたい」という女とホテルに入ります。女はすぐに眠ってしまい、モウは軽食を食べながら古い映画を観て過ごします。

夜明けになり、モウは女の靴を脱がせて帰ろうとしますが、靴の汚れを落としてから部屋を出ました。その日はモウの誕生日で、モウはグラウンドで涙がでないように体内の水分を減らすために、全力で走り続けます。モウは恋人からの連絡がないと諦め、ポケベルをベンチに置いて去ろうとしますが、突然ベルが鳴り「お誕生日おめでとう」という金髪の女からのメッセージが入っていました。モウは常連のファストフード店へ行きます。店主から「新入りのフェイと付き合ったらどうか」と勧められますが、モウは興味はないと言って店を去ろうとします。その時モウは、フェイ(フェイ・ウォン)とぶつかりそうになります。モウは「その時、2人の距離は0.1ミリ。6時間後、彼女は別の男に恋をした」と感じます。

ファストフード店「ミッドナイト・エクスプレス」の近くをパトロールしていた、認識番号663号の警官(トニー・レオン)は、仕事が終わると必ずこの店に立ち寄り、恋人の好物であるサラダを買って帰ります。彼はキャビンアテンダントである恋人と別れたばかりでした。663号が店に行くとママス&パパスの『夢のカリフォルニア』が大音量でかかっていて、音楽に合わせて体を動かしながら仕事をするフェイがいました。彼はサラダを買いフェイに「新人か」尋ねますが、フェイは聞こえないふりをします。さらに彼が「うるさい音楽が好きか」と尋ねると「いろいろ考えなくて済む」と答えました。次の日も彼はサラダを買いに来ますが、店主はたまには「魚のフライ」を買えばいいと勧め、サラダも買って恋人に選ばせればいいと言います。さらに次の日、663号は恋人は本当はサラダが嫌いだったらしいと伝えます。

フェイは彼を見ているうちに、好意を持つようになります。ある晩、663号の元恋人が店を訪ねてきます。その日663号は非番のため店には来ませんでした。元恋人は店主に663号宛ての手紙を渡します。店主は手紙の中身を読んでしまいます。店の従業員全員が手紙を読む中、最後に手紙を読んだフェイは、封筒の中に合鍵が入っていることに気がつきます。フェイは店主から、663号が来たら手紙を渡すよう言われます。663号が来て手紙を渡そうとしますが、彼は受け取らず「今度でいい」と言って帰ってしまいます。やがて663号は担当する地域が変わり、店には来なくなってしまいます。市場に食材を買いに行ったフェイは、昼飯を食べている663号と偶然に出会います。彼はフェイの荷物運びを手伝いながら、あの店で働いている理由を尋ねると、フェイは「カリフォルニアに行くためだ」と話して、一緒に行こうと誘います。フェイは彼に、手紙を取りに来ないなら郵送すると言い住所を聞くと、彼は「遊びに来るといい」と言います。

やがてフェイはしばしば仕事をさぼって、合鍵を使って彼の部屋に入るようになります。フェイは彼の日ごろの生活を探りながら、汚い部屋を掃除したり、気づかない程度の模様替えを、少しずつしていきます。行動は徐々に大胆になり、水槽の金魚を増やしたり、元恋人が置いていったぬいぐるみを交換したり、缶詰のラベルを張り替えたりします。663号は、部屋の微妙な変化に違和感を感じつつも、失恋のショックのせいだと思います。部屋の中の物が徐々に変わっていくにつれて、彼は失恋から立ち直っていきます。ある日、663号が不意に部屋に戻ると、フェイがいるところに遭遇します。そして部屋の変化はフェイのせいだと気がづきます。フェイの気持ちに気づいた663号は、ある日フェイをデートに誘い「カリフォルニアで夜8時と」言い残して帰ります。フェイは歓喜します。次の日、663号はバー「カリフォルニア」でフェイを待っていましたが、いつまで経ってもフェイは現れませんでした。代わりに店主がやってきて、彼にフェイからの手紙を渡します。手紙に慎重になっている彼は一度は手紙を捨てますが、やがて雨が降り出して、彼は慌ててゴミ箱から手紙を拾います。濡れた手紙が破れないように、慎重に手紙を取り出すと、そこには1年後の同じ日付の搭乗券の絵が描かれていました。しかし行き先は、インクが滲んで読めませんでした。

1年後、搭乗券に書かれた日付の日。フェイはキャビンアテンダントになっていました。フェイが久しぶりにファストフード店に顔を見せると、店は改装中でそこにいたのは663号でした。警官を辞めた663号が、店主からその店を譲り受けていたのでした。663号はフェイにあの時の手紙を広げて見せます。「こんな搭乗券で乗れるか。行き先が読めない」と言います。フェイは無視しますが「新しい搭乗券をあげる」と紙ナプキンに書き始めます。フェイは彼に「行き先はどこがいいか」と聞きます。663号は「君の行きたいところ」と答えます。

この映画は2人の青年の失恋から始まり、それぞれが新しい恋愛へと切り替えていく「途中」を描いているのが特徴です。恋人たちの別れと出会いの「狭間」を描いています。「恋の予感」を描き「恋の行方」を想像させる展開になっています。まさに「寸止め」の描き方が美しいです。
開始から35分で、モウの物語からフェイの物語に切り替わるオムニバス形式です。広東語はまるで音楽を聴いているみたいなイントネーションで良かったです。どちらかと言うと、後半の物語がメインだと思います。手持ちのカメラワークの独特の映像表現で、色彩の豊かさとブレが活きていて(特に前半)、オシャレだなと感じました。ベリーショートのフェイ・ウォンが可愛くて魅了されました。ブリーフ姿のトニーは好き嫌いが分かれると思います。いかにも暑そうな香港の様子と、香港の独身生活がよくわかります。663号の部屋でのずれた独り言が可笑しかったです。あと女性を飛行機に例えるセンスも良かったです。全編にママス&パパスの『夢のカリフォルニア』がかかり、挿入歌兼エンディングの『夢中人(フェイ・ウォン)※クランベリーズのカバー』も素敵でした☆
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