映画「MOTHER マザー」を観て。聖母(マリア)か、怪物(モンスター)か
2020年製作。主演は長澤まさみ。2014年に実際に起きた「少年による祖父母殺害事件」に着想を得て作られたヒューマンドラマ作品で、同事件のルポルタージュである『誰もボクを見ていない なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』を原案にしているようです。素行が悪く、若くして周平という子供を産んだシングルマザーで、男から男へと渡り歩き、仕事も続かない、その場しのぎで生きてきた三隅秋子は、周平を小学校にも通わせません。周平に異常に執着して、自分に忠実であることを強いてきました。そんな秋子におとなしく従い続ける周平。母親からの歪んだ愛に翻弄されながら、母親以外に頼るものがない周平は、秋子の要求になんとか応えようとします。家族からも絶縁されて、社会から孤立した母子の間には絆が生まれ、その絆が17歳になった周平を殺人事件へと向かわせます。

映画の冒頭、周平がランドセルを背負ってひとりで歩いています。そこに自転車に乗った母親の秋子(長澤まさみ)が現れます。秋子は周平の膝から血が流れているのを見て、傷跡を舐めます。周平は自転車で走っていく秋子を追いかけます。秋子と周平は、実家にお金を借りにいきます。そこには両親と妹の楓もいました。楓は母親の雅子に「お金は貸しちゃダメだよ。私だって20万円返してもらってないんだから」言います。お金を貸す気のない雅子と楓の様子を見て「あんたらは私のことをバカにしてんだよ。楓のことばっかり可愛がって。私は大学にだって行けてないんだから」と言って、コップを壁に投げつけて大声で怒鳴り散らします。秋子は「本当に最後だから、お金を貸して」と頼みますが、ハッキリ断られてしまいます。秋子はゲームセンターに周平と一緒に行って、そこでホストの遼(阿部サダヲ)と出会います。遼をアパートに連れてきて、秋子は周平に「お腹空いた。お湯沸かせって言ってんの」と強く言ます。周平は「お湯沸かない。カップ麺もない」と答えます。秋子は周平に「じゃあ買ってこい。遼くんも食べる?ちゃんとお湯入れてこいよ」と言いつけます。周平は秋子に言われるまま、カップ麺を2つ買って帰ります。周平が玄関のドアを開けると、居間から秋子と遼のいちゃいちゃする声が聞こえてきます。

秋子は名古屋に帰る遼について行くために、以前から秋子に気がある市役所職員の宇治田守に周平を預けます。宇治田は自宅で周平を預からずに、周平をアパートに1人で残して、食料品を買ってきます。周平が「お湯沸かない。ガス止まってる」と伝えると、宇治田は周平に「一人で大丈夫だよね?」と言って帰ります。秋子は何週間も帰ってこないのでした。ある日周平が、カップ麺をそのままでバリバリと食べていると、秋子から「帰るお金がないからすぐ振り込んで」と電話がかかってきます。周平はATMに向かいます。やがて電気も止められてしまいます。秋子は遼を伴って、アパートに帰ってきます。周平が「お金振り込んだのに、なんですぐ帰って来なかったの」と言うと、秋子は「あんな金で帰れるわけないじゃん」と答えます。ある日、秋子と遼は、ファミレスに宇治田を呼び出して「息子にいたずらしたんだろ」と脅します。そして宇治田の自宅に行って「慰謝料として10万払え」と言います。宇治田はお金を取りに2階へ上がります。宇治田が遅いので遼が様子を見に行くと、宇治田と遼は揉み合いにり、遼が誤って宇治田を刺してしまいます。そして3人での逃亡生活が始まります。

逃亡生活の中、海辺で遼が持ってきた刺身を3人で食べます。秋子が公衆電話から実家へ電話をかけると「宇治田っていう市役所の人が、あんたに会いたいってうちまで来た」と言います。宇治田が生きていて、訴える気もないと安心した秋子は「もうこんな所にもういる必要はない」と言って、遼の仕事先の銭湯のお金を盗んで、今度はラブホテルでの生活が始まります。3人は毎日ラブホテルで生活をします。秋子は朝になると受付に荷物を預けて「また夜戻ってきます」と伝えます。秋子はスタッフの赤川に「私たちの部屋は、いつでも覗きにきていいのに」と挑発します。秋子は今度は元夫であり周平の実父からお金をもらおうと、周平を会わせます。周平は父親に「修学旅行のお金が必要で」と伝えます。父親は「養育費は毎月送ってるぞ。お母さん働いてないのか」と聞きます。父親は周平に「俺のところにくるか?」と聞きますが、周平は「お母さんの方がいい」と答えます。その後秋子は、続けて妹の楓の家に周平を向かわせます。楓は周平を玄関から締め出します。あとから楓が周平を追いかけてきます。楓は秋子の頬を叩き「子供を使うなんて、頭がおかしいんじゃないの。お姉ちゃんとは縁切るから」とお金を秋子に投げつけます。秋子は吐き気を催して「子どもできたっぽい」と言います。

赤川は周平に「学校行けてないんでしょ」と言って、学習ドリルを周平にプレゼントします。秋子がホテルに戻ってきた遼に、自分が妊娠したことを告げると「他の男との子だろ」と言って、自分が父親だと認めません。秋子が「絶対に堕ろさない」と言うと、遼は秋子に暴行を加えます。遼は荷物を持って、出て行ってしまいます。すると赤川が「大丈夫ですか?」と言って部屋に入ってきます。秋子は「周平。ビール買ってきて」と言って周平を外に出して、赤川と関係を持ちます。2人はお金がなくなったので部屋に泊まれなくなり、翌日から赤川が敷いたテントに寝泊まりすることになります。秋子は「ばばあのところ行くしかないかもね」と言います。秋子は「ばばあの顔見ただけでも吐き気がするから、一人で行ってきて」とまた周平を1人で行かせます。周平が祖母に「お母さん妊娠した。お金必要だって」と言うと、祖母は「それも嘘なんでしょ!もう嫌。そんな子に育てたつもりはないわ」と喚きます。祖母は周平を追い出します。周平は秋子のところに戻り「妊娠って言ったけどダメだった」と伝えると「なんでよ?」と秋子に強く言われます。周平が「もう一回行ってこようか」と言って、再び祖父母の家に向かおうとすると、秋子は周平を引き止めて抱き寄せます。

時は5年後になります。成長した周平と、生まれた妹の冬華は路上をふらふらと歩いています。路上生活をしている3人に、児童相談所の職員である高橋亜矢(夏帆)が声をかけて、簡易宿泊所での新しい生活が始まります。しかし秋子は、児童相談所の人たちに対して、敵意をむき出しにします。それでも亜矢は、2人の子供に対してとても親身に接して、周平にフリースクールを進めます。秋子は周平に「あんた、学校なんか行ったら絶対悪口言われるからね」と言いますが、周平はフリースクールに通うことを決めます。そんな折、突然遼が戻ってきます。秋子は最初は追い返しますが、結局4人での生活が始まってしまいます。消費者金融で借金をした遼は、子どもたちに贅沢な食事を食べさせたり、温泉に行こうなどと話をします。遼はたびたび秋子に暴力を振るいます。その現場にたまたま居合わせた亜矢は、子ども2人をファミレスに連れていきます。亜矢は周平に「お母さんと離れて暮らすこともできるんだよ」と言います。亜矢が周平に「夢とかはあるのか」と聞くと、周平は「わかりません」と答えます。

秋子はハローワークに職探ししているフリをしに出かけます。秋子は周平に「冬華の面倒見てて。あんたもう、学校行かなくていいでしょ」言って、周平は部屋に置いていかれます。そこに亜矢が、たくさんの本を差し入れるために訪ねてきます。冬華は絵本を見て喜びます。周平は「難しそう。勉強しないと」と言います。亜矢は「周平くんなら大丈夫だよ」言います。そこへ秋子が帰ってきて、亜矢に物凄い敵意を向けます。秋子は本をすべて元のカバンに詰め込み、玄関の外へ放り投げます。秋子は亜矢に「何様なんだよ」と言って怒鳴りつけます。亜矢は謝りながら部屋から出て行ってしまいます。ある日周平が部屋に帰ってくると、秋子と遼が必死に荷物をまとめていました。秋子は「借金取りが来るから、荷物まとめて早く逃げるぞ」といいます。周平は秋子に「行かなくていい?」と聞きます。周平は「2人で行けばいいじゃん。学校行きたいんだけど」と言います。すると秋子は周平に「あの女になに言われたか知らないけど、あんた嫌われてるからね。クサイって」と言います。再び亜矢が部屋を訪れた時にはもう誰もいなくなり、ドアに「亜矢さんごめんなさい」と書いた紙が貼られていました。

遼は借金取りからの電話が止まず「俺行くわ。一緒にいるとお前らも危ないから。最後くらいカッコつけさせてくれよ」と言って3人の元を去ります。周平は遼に「冬華のことよろしくな。お前の母さん、やっぱめっちゃいい女だわ」と言われます。周平が秋子に「よろしくなって言われた」と言うと、秋子に頬を叩かれます。秋子は周平に「すぐ戻ってくるから。私たちいつもそんな感じだから」と言いますが、すぐに泣きながら周平にすがりつき「もう周平しかいないんだから」と言います。ついに一家は収入源がなくなり、周平が働いて支えることになります。周平は仕事先の寮に住み込みで働くことになります。社長は良い人で、昼飯を食べない周平に「仕事中に倒れられても困るんだよ」と言い、おにぎりを分けてくれます。周平は社長に給料の前借りを頼みます。社長は「前借りはもう無理だ。手取り分なくなるぞ。先月も前借りしてたけど、何に使ってんだ?」と言い、周平は「お母さんの携帯代とか…」と答えます。社長は前借りを断ります。周平が家に帰ると、秋子はベッドに横になりながらテレビを見ていました。秋子は「前借りできた?」と聞きます。周平が「ダメだった」と言うと、秋子は「なにやってんだよ!!!もう一回行ってこい」と言います。周平が「もうパチンコとか行くのやめてよと言うと、秋子は「ふーん。偉くなったんだね。次あんたが帰ってきたら、私と冬華はもういないかもね」と言います。

周平は夜、事務所に1人で入って物色します。タブレットを見つけて手に取ったところで部屋の電気がついて、社長が現れます。社長は「盗んでたのはやっぱりお前だったのか」と言って、周平の胸ぐらを掴みます。社長は部屋に周平を連れてきて、働きもせずに周平に頼りっきりの秋子を怒鳴りつけます。秋子が「足が痛くて」と言うと、社長は「こいつが盗んだものを、質屋に売りに行ったりできんだろ。歩けんだろ。子供達が20歳になるまではちゃんと面倒見てやれよ。それが親じゃねぇのかよ」と言います。後日、家族は社長の自宅に招かれます。秋子はご飯を作ってくれている社長を手伝います。秋子はご飯を食べながら、先日の件を謝ります。社長は「もういいんだよ。明後日からちゃんと働いてくれよ」と言います。秋子が「奥さんは?」と尋ねると「死なれちゃってね…」と言われます。秋子は事務所で働かせてもらうことになります。秋子が外で一服していると遼から「助けてくれ秋子」とメッセージが届きます。そこに社長が戻ってきます。秋子は社長と関係を持ってしまいます。

秋子が遼からのメッセージを開くと「明日までに50万、なんとかならないか。まじで死ぬ。助けてくれ秋子」と書かれていました。秋子は周平を事務所まで呼び出して、金庫の鍵を渡します。周平は「もうやめようよ」と言いますが、秋子は「死んじゃうんだよ」と言います。周平はしぶしぶお金を取りに行き、札束を手に戻ってきます。秋子は「それだけ?全然足りないじゃん」と言います。3人は荷物をまとめて寮の外へ出ます。周平は秋子に「どこ行くの」と問いかけますが、秋子はそのまま歩き出します。周平と秋子は、歩きながら話をします。秋子は周平に「腹減った。ばばあ殺せばお金手に入るよね」と言います。周平はうなずきます。秋子は「さっきの話、本当にできんの?」と聞き返します。秋子が「どうやってやるの」と聞くと、周平は「わかんない」と答えます。秋子が「ここまできて、できないとかありえないからね」と言うと、周平は「わかってるよ」と答えます。秋子が周平に「どのくらいかかんの」と聞くと「1時間くらいじゃない?」と答えます。秋子は「遅すぎ」と言います。周平は1人で秋子の実家に向かいます。

祖母は台所で料理をしていました。インターホンが鳴り、祖母が玄関を開けると、そこには周平がいました。祖母は周平に「夕食食べて行きなさいよ」と言って家に入れます。祖父が「あの時の赤ん坊は、生まれたのか」と聞くと、周平はうなずきます。祖父が「男の子か、女の子か」聞くと、周平は「女の子」と答えます。祖父は「女の子か。会ってみたいなあ」と言います。するといきなり周平が立ち上がり、台所へ向かいます。すると祖母の悲鳴が聞こえてきます。周平は返り血を浴びた状態で、秋子と冬華の待つ神社へ戻ります。その様子を見た秋子は「ほんとにやったんだ」と言います。亜矢が車の中でテレビを見ていると、周平が起こした殺人事件のニュースが流れてきます。周平の弁護士が秋子との面会で「あなたが殺害の指示をしたんでしょう」と訊きます。秋子は「私の子ですよ。舐めるようにしてずっと育ててきたの。私があいつをどう育ても、親の勝手じゃないですか」「あいつは時々嘘をつく」と言い、殺害の指示もしていないと言います。

周平は弁護士との面会で状況を聞かされます。弁護士は「お母さんが殺害の指示を出したかどうかが、裁判の争点になってくる。それによっては君の量刑が軽くなることもあるんだ」と言われます。周平は「全部僕がやりました。指示はされていません」と答えます。周平は強盗殺人罪で懲役12年、秋子は懲役2年半(執行猶予3年)の判決が下ります。2人とも控訴はしませんでした。亜矢が服役中の周平に面会に来ます。妹の冬華は里親が見つかり、今すぐは難しいけれど文通はできるように対応してるから待ってねと伝えます。亜矢が周平に「どうして全部背負ったの?12年って長すぎるでしょう」と問うと、周平は「ご飯も寝るところもあるし、図書室で本も読めるし、もう外に出たくないんだ」と答えます。立ち上がって部屋から出て行こうとする周平に、亜矢は「それだけじゃないでしょ」聞きま明日。周平は「お母さんのこと好きだから。一人じゃ生きていけないですよお母さん。どうしたらよかったんですかね。お母さんのことが好きじゃダメなんですかね」と言います。秋子が部屋でぼーっとしていると、亜矢が冬華の入所報告に来ます。秋子は「周平も冬華も私の子だよ」と呟きます。亜矢は「あなたは育てられないでしょう」と言います。亜矢は秋子の手を取り、自分の頬に当てます。「周平くん、お母さんのことが好きだって」と伝えます。秋子は冷たい無表情のままでした。

とにかく秋子のモンスター(怪物。鬼母)ぶりが凄かったです。周平への愛情がまったく感じられないのに、周平は秋子を「聖母」のように従順に従っているさまに「共依存」という言葉が浮かびました。周平は善悪の区別がちゃんとできていて、自分の意思(責任)で行動していると思いますが、母親によって、マインドコントロール(支配)されているようにも取れました。周平の秋子への「崇拝」とも取れる行動は、逆説的ですがある種、潔いロマン(自由?)さえ感じました。宇治川も実父(祖父)も妹(楓)も赤川も亜矢も、結局誰も母子を救えずに、悲劇の最後を迎える展開に、複雑な気持ちになりました。
『海街diary』を観たあとに観たせいか、長澤まさみさんの役柄の豹変に驚きました☆



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