映画「近畿地方のある場所について」を観て。人気ホラー小説の映画化。主演は菅野美穂


 2025年8月公開。「このホラーがすごい!2024年版」で第1位を獲得した作家・背筋による人気ホラー小説の映画化作品です。主演は、菅野美穂と赤楚衛二です。上質のモキュメンタリー(フィクションをドキュメンタリー映像のように見せかけて演出する表現手法)作品です。本来無関係なはずの事件や情報を調べていく内に「近畿地方のある場所」に元凶があると判明して、それについての真相を探る過程での恐怖体験の数々を描き出しています。

画像

冒頭はオカルトライター・瀬野千紘(ちひろ・菅野美穂)が「私の友人が消息を絶ちました」「情報をお持ちの方はご連絡ください」という内容の動画を、SNS上に投稿している場面から始まります。ある時千紘は、オカルト雑誌「不思議マガジン(文詠社)」の若い編集部員・小沢悠生(赤楚衛二)から、同誌の編集長・佐山武史が残した数々の資料を基に、情報を「復元」するのに協力してほしいと依頼されます。佐川は特集記事のデータを全て持ったまま失踪したために、誌面に穴が生じないようにするためでした。出版社の地下の資料倉庫で、千紘と小沢は、佐川の残した資料を一つずつ確認していきます。最初は、1984年に発生した「女子小学生の謎の失踪事件」のワイドショー番組の録画映像でした。次に二人は、オカルト界隈で有名な事件である、2002年の「東大阪市・倉本中学校の林間学校・集団ヒステリー事件」の記録映像を確認します。映像には、窓から見える暗闇の中から「おやまにきませんか」「かきもあります」という声と、木の裏から伸びる正体不明の白い手が見えました。二つの資料は関連性がわかりませんでしたが、次に確認した2013年の「某バイカーのツーリング記録映像」には、山の中にある人形でいっぱいの祠と「林間学校集団ヒステリー事件」で生徒たちが目撃したのと同じ声が記録されていました。

画像

次に確認したのは、失踪した「ニコ生」配信者が失踪直前に「アポ無し訪問」をした心霊スポットである「首吊り屋敷」でのライブ配信映像でした。そこには首つりロープがたくさん映っていました。その次に確認したのは、失踪前の佐川が自分でインタビューした、大学生・目黒裕司の「”見たら死ぬ動画”を見た友人が「女の声が聞こえる」と言い出して姿を消した」という証言記録でした。「首吊り屋敷」内部と、目黒の友人のアパートの玄関には、同じ絵柄(鳥居と人型、四隅に「了」の字)が描かれた意味不明のお札が貼られていました。さらにネットで調べると、とても良く似たお札の目撃情報(四隅の字が「女」であるもの)がありました。いまは取り壊されている「首吊り屋敷」は、近畿地方の心霊スポットであり、お札についても近畿地方を中心として各地へと分散していることが分かりました。2014年の「ある家族のホームビデオ映像」には”見たら死ぬ動画”にあった団地(5号棟)が記録されていました。さらに同じ団地では、鬼が捕まえた相手に「身代わり」を求める「ましらさま」という奇妙な遊びをしている子供たちを記録した「クイズ大作戦」というワイドショーの映像もありました。

画像

お互いに無関係のはずの資料が、次々とつながっていきます。千紘は知り合いの霊能者・諸田美弥に、お札の正体を調べてもらうために霊視を頼みます。しかし諸田は、千紘の背後に見えた恐ろしい何かの存在に恐怖して、霊視を中止してしまいます。千紘と小沢は、別の映像資料を確認します。それは目黒がお寺でお坊さんにお祓いをしてもらっているもので、お坊さんは急に嘔吐して、お祓いは失敗に終わります。お坊さんは続けて目黒に「生き物を絶え間なく飼い続けなさい」と言います(のちにお坊さんは投身自殺)。次に確認したのは、某バラエティ番組で特集されていた、女子高生の間で流っている不幸のチェーンメールの映像でした。そこでは「3人以上に送らないと死ぬ画像」として例のお札と同じ絵柄が映っていました。関係者の失踪や死が多過ぎることに憂慮する千紘は小沢に「やばい。手を引くならいま」と言いますが、あくまでも雑誌の記事を完成させようとする小沢を心配しつつも、千紘は最後まで協力する羽目になります。ふたりは佐山が残した最後の映像資料である、某アニメで紹介された「まさるさま」という近畿地方の昔話を見ます。内容は死んだ母と再会したいまさるが「神様」から「傷んだ柿(食べさせるとその人を思い通りにできる)」を与えられて「柿で嫁を取って母代わりにしろ」と言われるものでした。まさるが「おーい。柿があります」と村の女たちを呼びますが、女たちは不審がって無視しています。最後にまさるは衰弱死しますが、まさるが死んだあとも、まさるの声が山から聞こえ続けるので、怯えた村の女たちが、まさるのために祠を建てて「まさるさま」として祀ることにした、という内容でした。二人は「近畿地方のある場所には何かがある」と確信し、近畿へ向けて出発します。小沢はビデオカメラで事の始終を映し始めます。

画像

しかし小沢の周辺では異変が生じていました。一家失踪事件が起こった「弁天手芸店」でお札を見た時に怪奇現象に遭遇します。小沢は資料倉庫で発見した佐川のメモ書きを見た直後に「見つけてくれてありがとう」という言葉を残して姿を消します。千紘は資料倉庫に残されていた資料を手に「弁天手芸店」へと向かいます。そこにはまるで憑依されたかのような小沢がいました。千紘にビンタをされて正気に戻った小沢は、佐川の夜逃げを手伝ったライターから、いまの佐川の居場所を教えてもらったと言います。佐川は富士山の麓の一軒家を借りていました。二人は佐川の家を訪ねますが、室内には「身代わり」となった生き物の死骸が大量に放置されていて、佐川の妻はまるで獣のように四つ足で走り回っていました。片目を失明していた佐川は「オレの次はコイツか、たぶらかしやがって。気持ち悪い女だ」と、千紘を責めます。佐川が「見つけてくださってありがとうございました」と言った直後に、佐川の妻は2階から転落して、逆さに柵に突き刺さって死にます。佐川は小沢にUSBメモリを渡して、自ら柵に目を突き刺して自殺します。二人は佐川の家から逃げ出します。ふたりがUSBメモリの内容を確認すると、そこには「やしろさま」を信仰する新興宗教集団である「あまのいわやと」の紹介ビデオが記録されていて、そこには千紘の姿も映っていました。

画像

幼い息子である「たくみ」が何者かに殺された悲しみから救われるために、千紘は一時期入信していたことを告白します。千紘は集団が「奇怪な黒い石」を「やしろさま」の御神体として崇めていたことや、集団の主宰者が「ある日突然、庭に黒い石が出現した」と語っていたことを小沢に伝えます。「まさるさま」に登場する「傷んだ柿」は「やしろさま」の御神体として崇められていた「黒い石」のことであり、石こそが「近畿地方のある場所」での一連の事件の元凶ではないか、と千紘は推測します。「黒い石」を破壊するために、二人は「まさるさま」の絵本を描いた作家のもとを訪ねます。「隣に住む老婆から「まさるさま」の昔話を聞かされた」と話す作家が住んでいたのは「見たら死ぬ動画」に映っていた同じ団地(5号棟)でした。その作家は、昔団地の子供たちの間で流行っていた「ましらさま」の遊びも知っていました。団地内で小学生の「了(あきら)」が首吊り自殺をして以来、遊びが行われなくなったことや、事件当時、了の母親が息子の死体を木から下ろそうとして「両手を天に向かって上げ続ける姿」が忘れられないこと、正気を失った母親が奇怪なお札を撒くようになったこと・・・。

画像

二人は作家から「まさるさま」を祀る祠がある場所と、行方不明になっていた祠の「御神体の石」が、ある日祠に戻っていた、という噂を聞き出します。「まさるさま」の祠と「あまのいわやと」で崇められていた「黒い石」は同じものだと確信した二人は、車で山へと向かいます。祠に行く途中のトンネルで、二人は「赤い女(母親)」と「首の長い男の子(息子の了)」の化け物と遭遇します。千紘はとっさにブレーキを踏んで額にケガをします。千紘は車で女を撥ねて、祠のある場所へと進みます。千紘は「黒い石は“必要とされるところ”に移動する」「母親と了はかつて、団地近くの一軒家(首吊り屋敷)に住んでいた」「首吊り屋敷にも「黒い石」が現れて、奇怪なパワーを母と了に与えた」と推測します。千紘は「私は絶対に諦めない」と言い、小沢と一緒に祠へと到着します。しかし祠の中には黒い石はなく、千紘は「なんでここに来ないんだよ」と怒り狂い、黒い石を破壊するために持ってきたバールで祠を叩き壊します。すると山の中から「まさるさま」の声が聞こえてきます。声が聞こえる先には、池と巨木がありました。千紘は突然「小沢くんありがとう」と言います。千紘の隣には「やしろさま」である「黒い石」が現れていました。

画像

実は千紘は、死んだ息子と再会するために、黒い石の所在をどうしても突き止めたかったので、佐山を唆して「黒い石」に関する事件を調査させていたのでした。佐山による調査が不可能だと考えた千紘は、特集記事を完成させるために、何も知らない小沢を利用して「黒い石」の調査を続けさせたのでした。千紘は「来てくれた。私のところにも」「私も必要だったから」「小沢くんは、私の一番の友人だよ」と言います。小沢は千紘が死んだ息子に再会するための「身代わり」にされたのでした。異形の「まさるさま」の体から出てきた巨大な目玉の群れが小沢の体を包み込みます。小沢が「まさるさま」の体内へ飲み込まれた直後、体内から赤ちゃんの声が聞こえてきます。

画像

小沢が記録したビデオカメラに残されていた映像の一部始終は、SNS上に動画として拡散していきます。小沢を「身代わり」にした張本人の千紘は、SNSに動画を投稿して「行方不明の小沢くんの情報をお持ちの方は、ご連絡ください」と視聴者に呼びかけます。千紘は「見てくださって、ありがとうございます」と言って微笑みます。その腕には、死んだはずの千紘の息子が抱かれていました。そして赤ちゃんの頭部から、奇怪な触手が無数に伸びてきて、千紘の顔も歪み、動画は終了します。


とにかく「モキュメンタリー」の映像が見事に緻密に作り込まれていて、まるで「ドキュメンタリー」を見ているような感覚に襲われました。例えば小沢が回していたデジタルビデオカメラの映像がファインダー越しに映る場面で、ファインダーの内部の「録画可能時間」と「バッテリーの残量」がだんだん減っていくところなど、二人と同じ時間を共有しているような感じがしました。ビデオテープの古い映像や、ニコ生の配信映像も良く再現されていて、リアルでした。VHSのビデオデッキ、パソコンの動画、SNSの画面、タブレット、スマホ、USBメモリなど、出てくる小道具も現代的でした。

母親(赤い女)と了の親子と同じ境遇の千紘も、化け物に取り憑かれてまで我が子を取り戻そうとするラストには「母の子に対する執念」が感じられて、これが母親の本質なのか、と考えさせられました。菅野美穂の自然体の演技が光っていました☆

コメント