書評 「生のみ生のままで」(綿矢りさ 著)☆女性同士の鮮烈な恋愛小説。濃厚でリアルな性描写が圧巻☆




 第26回島清恋愛文学賞の受賞作です。お互いに男性の恋人がいるのに、惹かれあう逢衣(あい)と彩夏(さいか)。女性同士、心と身体を思いのままに求め合い、ふたりは一緒に暮らし始めます。万難を排し、自分たちの愛を貫こうとするふたりの生きざまを描きます。上巻と下巻の2冊編製です。



南里逢衣は25歳で、高校の時の憧れの先輩であると丸山颯(そう)と、現在交際中です。付き合い始めから既に2年が経ち、二人は同棲を始めていました。2人はお盆休みを利用して、颯の父親の会社が所有する、秋田のリゾートマンションまで出掛けます。到着すると、颯の幼い頃の友人、中西琢磨と偶然再会します。琢磨は荘田彩夏という芸能活動をしている彼女とお忍び旅行に来ていました。久しぶりの再会を喜んだ颯と琢磨は、お互いの彼女も交えて部屋で飲もうと意気投合します。部屋で酒盛りが始まると、颯と琢磨は思い出話で盛り上がっていましたが、逢衣は無愛想な彩夏となかなか打ち解けることができません。翌日も4人は車で海水浴場まで出かけることにしました。泳ぎ疲れて、コンビニで買った昼食を取っていた時に、ぱらぱらと雨が降り出します。ホテルに戻ることにした4人ですが、雨は次第に強くなっていきます。あと5分でホテルへ到着という時に車が泥濘みにはまってしまいます。颯と琢磨は女子2人をその場に残し、ホテルまで助けを呼びに行くことにしました。雨が降り雷が鳴る中、逢衣と彩夏は近くのバーベキュー広場の屋根がある炊事場で助けを待つことにしました。彩夏は雷が怖いらしく、ネックレスも洋服も全て脱ぎ、地べたに放り投げます。逢衣は彼女を安心させるために自分もピアスを取り、洋服を脱いで、恐怖で崩れ落ちそうになっている彩夏を抱いて、ただ助けを待ちました。しばらくすると颯と琢磨がホテルの従業員を連れて戻ってきました。最初は無愛想だった彩夏も雷の日の一件から、逢衣に少し心を開いたようでした。ふたりは東京に戻ってもまた会おうと約束し、別れました。

旅行から帰ってからも逢衣と彩夏は互いに連絡を取り合います。仕事が終わってから食事をしたり、彩夏が逢衣の職場である携帯ショップに顔を見せに来たり、ふたりは良き友達として時間を過ごします。ある日、逢衣は颯から「逢衣の実家に挨拶に行ってもいいか?」と聞かれます。逢衣は颯が結婚について考えていることを心から喜びます。逢衣の実家で挨拶を終えた帰り道、逢衣は颯から、琢磨が彩夏から、別に好きな人が出来たと別れ話を切り出され、落ち込んでいると聞きます。彩夏と毎日のように連絡を取り合っていた逢衣でしたが、琢磨と別れたことも、好きな人ができたことも全く知りませんでした。琢磨との別れ話について詳しく聞きたい気持ちもあり、逢衣は彩夏の世田谷のマンションを訪れます。彩夏は逢衣のために手の込んだ料理を用意してくれていました。料理を食べながら逢衣は、琢磨との別れ話や新しい好きな人について話を聞き出します。話の途中、彩夏は奥の廊下へ消えて戻って来なくなります。心配した逢衣が薄暗い廊下を進むと、彩夏はベッドの上で突っ伏して泣いていました。琢磨との別れで彩夏が落ち込んでいると思った逢衣はそのまま部屋を出て、帰ろうとします。その時、彩夏が突然逢衣に覆い被さり、逢衣の唇を奪います。彩夏がふざけていると思った逢衣は激怒しますが、彩夏は「自分の好きな人は逢衣だ」と告白します。受け入れられない逢衣はそのまま部屋を飛び出します。

彩夏からの突然の告白とキスに逢衣は戸惑い、どうしようもない怒りが湧いて来ます。琢磨にも颯にも相談できない逢衣は、もう二度と彩夏とは会わないことを決めます。それから数日後、逢衣は、彩夏が仕事もできないほどひどく落ち込んでいるという話を耳にします。もう彼女に関わりたくはない逢衣でしたが、芸能活動をしている彩夏が、自分が原因で「活動休止」になるのも気分が悪いので、一度見舞いに行くことにします。見舞いに行くと彩夏は、逢衣に無理やりキスをしたことを詫び、また来てほしいと逢衣に頼みます。その後、彩夏から再び頻繁にメールが届くようになり、メールの文面には「会いたい」という文字が紛れ込むようになっていきます。一方、颯は逢衣を結婚式場見学へ誘います。逢衣は颯から結婚のサインを感じとり、嬉しさもありましたが、彩夏とのキスが忘れられなくもあり、心ここにあらずの日々でした。逢衣は結婚式場でもらった結婚式の招待状フォーマットに「荘田彩夏様」と打ち込み偽の招待状を作ります。そして逢衣は、偽の招待状をもって再び彩夏のマンションを訪ねます。逢衣は彩夏に結婚式に来てほしいと伝えますが、彩夏は逢衣の気持ちを確認させてほしいと逢衣を抱きしめます。その後二人は互いにキスをします。逢衣はキスをしながら、自分がひどく満たされていることに愕然とするのでした。

逢衣は颯に「自分は荘田彩夏と両思いになったから別れてほしい」と切り出します。結婚式場見学まで行っていただけに颯は驚き、納得がいかない様子でした。二人は同棲を解消し、逢衣は彩夏が住むタワーマンション移り住むことにします。逢衣は芸能活動をしている彩夏に依存しないよう、携帯ショップをやめて出版社で働き始めます。ある日彩夏は、上海で撮影の映画を終え、後輩の鈴木凛を連れて自宅マンションに帰ってきます。彩夏は小さい時から親元を離れ、芸能事務所の寮で一緒に頑張ってきた凛を常々気にかけ、何かあればサポートしたいと思っているようでした。世間には、二人は仲の良い友人として過ごし、恋愛関係にあるということは秘密にしていました。そんなある日、何時になっても彩夏が仕事から帰って来ませんでした。やっと夜遅い時間に彩夏から電話があり、逢衣は急いで彼女の芸能事務所までタクシーを飛ばします。事務所に着くと、彩夏のマネージャーである米原からある記事を渡されます。そこには逢衣と彩夏が自宅で抱き合いキスをしている写真が載っていました。彩夏が着ていたTシャツは、彩夏が自宅に鈴木凛を連れて来たときに着ていたものでした。マネージャーの米原は、ごまかしきれない写真は事務所で買取するから、即刻、彩夏とは別れ、タワーマンションを出て行くように逢衣に頼みます。納得の行かない逢衣は、一度彩夏に会わせてほしいと頼みますが、願いは聞き入れてもらえません。逢衣はタワーマンションに戻ると荷物をまとめるしかありませんでした。逢衣は一度実家に戻ることとなり、彩夏からの連絡を待ちましたが、どれだけ待っても彩夏からの連絡はありませんでした。

それから7年後、彩夏の母から連絡があり、逢衣に彩夏を引き取って欲しいと言われます。彩夏は心身を病み、芸能界も引退していました。心を開かない彩夏に対して、逢衣は献身的にケアをします。やがて彩夏の状態も回復してきて、逢衣にも以前のように、心を開くようになります。彩夏は芸能界に復帰し、ふたりは観音崎の灯台に行き、永遠の愛を誓いあうのでした。


随所に繰り返し出てくる、女性同士の濃厚でリアルな性描写が圧巻です。周りに理解されなくても、愛を貫こうとするふたりの真摯さに心を打たれます。いままで様々な恋愛小説を読んできましたが、この作品が一番好きになりました。ぜひ多くの人に読んでもらいたいです☆



コメント