映画「やわらかい生活」を観て。精神を病んでいる独身女性の回復と解放の物語。女性が独りで生きることの肯定
2006年製作。『沖で待つ』で知られた芥川賞作家の絲山秋子の小説『イッツ・オンリー・トーク(第96回文學界新人賞の受賞作)』を基にした映画です。東京の下町・蒲田を舞台に、精神を病んでいる35歳の独身女性の孤独な日常生活を、4人の男性たちとの風変りな関係を交えて、ユーモラスかつリアルに描いています。2003年の映画『ヴァイブレータ』と同じ顔ぶれです(監督・廣木隆一、脚本・荒井晴彦、主演・寺島しのぶ)。

主人公の橘優子(寺島しのぶ。35歳)は独身で、早稲田大学卒で大手企業の総合職でバリバリのキャリアウーマンでしたが、6年前の阪神大震災で両親を亡くしたショックで躁うつ病を患い(本当は火事)、退職して1年間精神病院に入院します。現在は貯金(両親の保険金)を取り崩しながら、東京・蒲田の風呂なしアパート(銭湯。サウナ福の湯の上階)で独り暮らしをしています。さらに親友も3年前に総合職でニューヨークに行って、3.11テロで亡くなります。優子は若気の至りの入れ墨で、銭湯はいつもしまい湯でした。昔、自殺しようとしたときに、服に火をつけて胸に火傷を負っています。

冒頭、優子は紳士的で趣味の良い痴漢おじさん(田口トモロヲ)と場末の映画館でデートします。おじさんとは出会い系サイト(Alice's Restaurant BBS。大人の出会い喫茶)で出会いました。優子は「合意の痴漢。嫌な事はしません。建築家k・五十歳」という投稿者に返信したのでした。優子は「痴漢は嫌いじゃないです。kさんはするんですか?」と訊きます。痴漢おじさんは「あんな危険なことはできないよ。ああいうのは、妄想だからいいんだよ」と答えます。痴漢おじさんは「痴漢は場末の映画館でしょ」と言います。優子はデジカメで街の風景を撮り始めます。優子はひとりで「東急プラザ」の屋上の遊園地のミニ観覧車に乗ります。優子はブログに「蒲田は「粋」がない下町。だからなんだな、きっと。初めて来た時から、どこか懐かしくて、夢で歩いたことがあるみたいにしっくりきた」と書き、蒲田が気に入っているようでした。

ある日、優子は大学で同級生だった本間(松岡俊介)に声をかけられます。本間は都議会議員選に立候補していて、選挙の演説の最中でした。優子は本間に連絡先を教えます。優子は本間と飲みに行って語り合います。それから本間は優子の部屋に一緒に帰って来て飲みますが、マザコンの本間はED(勃起障害)のため、優子を抱くことが出来ませんでした。優子は本間に「でもさ、あたしたちって友だちじゃん。友だちならできるかもしれないし、しなくてもいいし。本間は自分にもあたしにも遠慮しなくていんだよ」と言います。本間は「遠慮なんかしてないよ」と言い、優子は「じゃあ、居て」と言います。本間は優子のアパートに一晩泊まります。翌朝、本間の帰り際に、優子は「きっとあたしだからだよ。好きな人なら大丈夫だよ」と励まします。

優子は両親の七回忌のために、福岡に里帰りします。優子は参列者に挨拶します。そして伯父の橘昭夫(柄本明)と話をします。優子は空港までいとこの橘祥一(豊川悦司。トヨエツ。40歳)にスカイブルーの外車(アメ車)で送ってもらいます。祥一はカーステレオで尾崎豊の『I Love You』をかけますが、優子は嫌がります。祥一は能天気な性格で、母が乳がんで死亡していて、6才の娘がいます。妻とは不和らしく、経営していたカラオケ店も潰し、福岡でヒモ生活をしていました。優子はタバコにフィルターを装着して吸っている祥一に「死ぬのが怖いの?」と訊きます。祥一は「うん。怖くないと?」と答えます。優子は「あたしは、死にたくなるのが怖い」と答えます。

ある日、優子がいつものようにブログ(蒲田の紹介)を書き込んでいると、メンタル系の病気サイトのリンクから辿ってきたという安田昇(妻夫木聡。24歳)という気の弱いヤクザからメールが来ます。内容は「長年探していた「タイヤ公園(タイヤゴジラ)」の写真を見ました。自分をそこへ連れて行ってくれませんか」というものでした。優子は「うつ病のヤクザかよ」と呟きます。優子は京急の雑色駅前で安田と落ち会います。安田は馬込に獣医の妻が居て(3歳の娘がいる)、妻は男は安田だけしか知らない様子でした。そして一緒に「タイヤ公園」に行って話します。優子は安田に「お医者さんごっこする」と訊きますが、安田は「もう大人だから」と断ります。そのあと、ふたりは一緒に食事をしに行きます。世間話をするふたり。優子は安田に「(両親や親友が死んだから)生き続けることが目標と言えば目標」と言います。ふたりは自分が飲んでいる精神薬と眠剤の話をし合います。SSRI、パキシル、アモバン、リーマス錠、ルボックス、旧世代のアナフラニール・・・。
優子は、本間とやはり大学時代の友人のバッハ(大森南朋)と3人で飲みに行きます。バッハは県庁を辞めてベンチャー企業を経営していました。バッハは優子に「俺は今でも橘優子さんが好きです」と告白します。優子の大学時代の恋人の話題になり、優子は「その年上の彼氏は、地下鉄サリン事件で死んじゃった」と言います。

優子は痴漢おじさんと食事デートします。痴漢おじさんは優子に「他の女の話するのは嫌?」と訊きます。優子は「痴漢に嫉妬するなんておかしいでしよ」と答えます。優子は車の助手席で、痴漢オジサンに渡された卵型ローター(バイブ)で、シートを汚さないようにハンカチを下に敷いてオナニーします。オナニーしている最中に、赤信号で隣の左折ラインに、祥一が運転している外車が停まります。優子は身を沈めて「ごめん、やめてもいい?」と言います。
ある夜、優子が銭湯から帰ってくると、いとこの祥一が階段で待っていました。祥一は「泊めてくれへんかな?」と言います。どうやら福岡から家出してきたのでした。祥一は競馬で負けて、駐車場から車を出すお金がないのでした。祥一はエアマットを敷いて泊めてもらいます。翌朝、祥一は朝ごはんを作ります。ふたりは「シマモト食品の明太子」をおかずにします。ふたりは競馬に行って、大金を当てます。ふたりはカラオケに行って特上寿司を食べます。優子は「躁転」したようです。ふたりは尾崎豊の『ダンスホール』をデュエットします。優子は「処女喪失の時のBGMは、ずっと『I Love You』だと思っていた」と言います。ふたりがアパートに帰ると、本間が待っていました。祥一は気を利かして、夜の街をぶらつきます。祥一は車の中で夜を明かします。翌朝、祥一がアパートに帰ると、優子は精神の具合が悪い様子でした。優子は北山メンタルクリニックに電話をかけて、メジャートランキライザーを処方してもらいます。祥一は雨の中、優子の代わりに薬をもらいに行きます。祥一は優子を優しく介抱します。

祥一は「洗わないシャンプー」を買ってきて、優子の髪を洗います。しかし優子は衝動的に、洗面器を叩き落とします。祥一は「もう勝手にしろ」と言って怒って出かけてしまいます。祥一がアパートに帰ってきます。祥一は心平粥(しんぺいがゆ)を作って優子と食べます。祥一は優子を「姫」と呼びます。優子は祥一に「「殿」って呼ばれてたね」と言います。翌朝、優子は元気になって、部屋のカーテンを開け放ち、メイクします。祥一が2匹の金魚を買って帰ってきます。ふたりはボールに金魚を離します。祥一は「緑(ツタ)の像」があったと言います。ふたりは役肉を食べに行って、銭湯にも行きます。銭湯から帰ってくると、ふたりはトマトジュースを飲みます。優子は祥一に「あたし食欲も出てきたけど、性欲も出てきた。後ろからすれば火傷の跡は見なくて済むよ」と言います。祥一は泣きながら、優子の頬を叩きます。祥一は自分の屈託を吐露します。ふたりは黒いメスの金魚にうどん、赤いオスの金魚にそばと名付けます。ふたりは縁日に出かけます。優子は「今年は夏を知らなかったから。季節が一個飛んじゃったから。だから今夏を見てる」と言います。

祥一は車の中で優子に「俺、このまま帰るよ」と言います。祥一は「俺、ユウコちゃんのこと昔から知っとるけど、赤ん坊の頃から知っとるけど、一回寝たこともあるけど、今度初めて会った気がする。そんで」と言って優子にキスをします。ふたりは手を合わせた後、祥一は走り去ります。優子は祥一が使っていたエアクッションを仕舞います。夕方、安田から電話がかかってきます。優子はファミレスの駐車場で安田と話します。安田は「仕事が入りました。たぶん終わったら俺は塀の中です」「俺のことで誰かに何か訊かれても、いっさい知らぬ存ぜぬで通してください。メールのアドレスも消してください。そうじゃないと面倒です」「出てきたら、マイアミ行こうと思ってます」「知ってるマフィアのところで、パワーボートの仕事をしようと思っています」と言います。ふたりは対面に座り、握手を交わして別れます。

優子は、痴漢おじさんと奥さん、本間と女性スタッフが仲良くしている風景を見ます。翌日、優子が福岡に向かっていると、福岡の伯父さんから電話がかかってきて、祥一が酒を飲んで、海に落ちて死んだと知らせてきます。優子は銭湯のしまい湯で「何かさ、みんないなくちゃっちゃってさ」とひとり言を言って、涙をお湯でごまかすのでした。

4人の男たちと接するうちに、優子の心が回復(解放)していく様子は素晴らしかったです。寺島しのぶは『ヴァイブレータ』ではアル中の役でしたが、今回は躁うつ病の役でした。寺島しのぶとトヨエツが出ているので、これは観るしかないと思いました。寺島しのぶは、相変わらずすごく色っぽく、スタイルも良すぎて、ジーンズが似合っていて、とても良いなあと思いました。トヨエツも相変わらず、足がカモシカのようにものすごく長くて、かっこ良かったです。ドラマ『青い鳥』の時の演技にそっくりでした。二人とも、セリフ回しも仕草も、とても色っぽかったです。手持ちのカメラでの長回し(ロングカット)の会話シーンが多く、寺島やトヨエツ級の演技がうまい俳優だからこそ、活きていると感じました。
舞台が蒲田で、レトロな喫茶店、レトロな商店街、池上本門寺の力道山の銅像、緑の象、タイヤの公園、デパートの屋上の観覧車、銭湯、居酒屋、競馬場、夜のファミレスの駐車場など、ロケーションの雰囲気が全て良かったです。アメ車もカッコ良かったです。トヨエツの歌も良かったです。トヨエツの映画で一番好きかも知れません。
女性がひとりで生きてるって、けっして悪いことだけじゃないって、ちゃんとわかる楽しい作品でした。何とも言えない(ストーリーでは説明できない)切ない映画でした。126分が短く感じました☆


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