映画「普通の人々」を観て。アメリカの中流階級である「WASP」の家族の崩壊と再生を描く
1980年製作のアメリカのヒューマン映画です。監督はロバート・レッドフォードです。アメリカの伝統的な上流・中流階級であるWASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)の家族の崩壊と再生を描いています。アカデミー賞の4部門を獲得して、商業的にも批評的にも成功を収めました。

イリノイ州のシカゴ郊外にある高級住宅街レイクフォレストに、ジャレット一家が住んでいます。父親のカルビン(ドナルド・サザーランド)は裕福な弁護士で、母親のベス(メアリー・タイラー・ムーア)は、常に完璧な主婦であることを追求する、やや神経症的な女性です。次男のコンラッド(ティモシー・ハットン)は、精神を病んでいます。一家は周りから見れば、誰もが羨望するような「普通の人々(=理想的な家族)」でした。しかし、一家の希望の星であった利発な長男のバックが、ボートの転覆事故で死んでしまってから、コンラッドが自責の念(兄を見捨てて自分だけが生き残ってしまったこと)に堪えかねて、自殺未遂をします。コンラッドは、精神病院で4か月間入院した後、自宅に戻ってきます。コンラッドは、学校の友人や家族から疎外感を感じていて、型破りな精神科医のタイロン・バーガー医師(ジャド・ハーシュ)を頼ります。コンラッドは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患っていて、自らの感情に対処するための助けを、バーガー医師に求めるのでした。

カルビンは生き残ったコンラッドを労わり、ベスを理解しようと努力しますが、ベスは自らの心の喪失を否定します。ベスは長男をひいきしていたので、コンラッドに対して冷淡になっていました。ベスは表面的な体裁を繕うことに執着していて、完璧で普通の外見を保とうと頑なでした。しかし、その努力が却ってコンラッドを遠ざけることになっていました。カルビンは、ふたりの心の平静を保つために腐心します。コンラッドはバーガー医師の元に週2回カウンセリングに通い、バーガー医師と共に、自らの感情をコントロールする方法ではなくて、対処する方法を学び始めます。

コンラッドは、合唱の時に声をほめてくれた同級生のジェニンと交際を始めます。コンラッドはジェニンに、自分のリストカットの痕を見られてしまいます。ジェニンはコンラッドが楽観的な気持ちを取り戻すために助力します。しかし、コンラッドは依然、両親や同級生たちとコミュニケーションや普通の関係を築くことに苦労しているのでした。ベスとコンラッドはよく口論します。カルビンはそのたび仲裁役を務めて、再びコンラッドを追い詰めるのを恐れて、コンラッドの味方をします。クリスマスが近づいたある日、ベスが自分の写真を撮りたがらないことにコンラッドが激怒して、祖父母の前で罵倒を浴びせたことでふたりの緊張が高まります。ベスはコンラッドが水泳のレッスンを辞めていたことを知ります。このことが原因で、コンラッドとベスの間に激しい対立が起こります。コンラッドはベスが病院を訪ねたことがないことを指摘します。コンラッドは、もしバックがコンラッドの代わりに入院していたなら、ベスはバックに会いに行っていたはずだと主張します。しかしベスは、そもそもバックは病院にいなかったはずだとぶっきらぼうに言い返します。ベスとカルビンはゴルフをするため、ヒューストンのウォード(ベスの兄)を訪ねます。そこでカルビンは、ベスの逃避的な態度について詰問します。バーガー医師の元を一度訪れたカルビンは、ベスにも医者に通おうと提案しますが、受け入れられませんでした。

いっぽうコンラッドは、精神病院で友人だったカレンと再会します。ある日、コンラッドがカレンに電話をかけると、カレンが自ら命を絶ったことを知って打ちひしがれます。ある夜、コンラッドは夜中にパニックになり、バーガー医師を訪ねます。バーガー医師との激しいカタルシス的なブレイクスルーセッションを経て、コンラッドはバックの死を自分のせいにするのをやめて、ベスの弱さを受け入れます。しかし、コンラッドが愛情を示そうとベスを抱擁すると、ベスは反応しませんでした。カルビンは最後に感情的にベスに向き合います。カルビンはふたりの愛を問い、ベスが本当に誰かを愛せるのかを問いかけます。カルビンはベスに「お前が分からなくなった」と言います。呆然としたベスは、荷物をまとめてヒューストンへ戻ります。カルビンとコンラッドは、新しい家族の状況を受け入れて、父と息子の愛を確かめ合います。

家族の絆の断絶の問題を、シリアスタッチでわかりやすく描いています。ボートの転覆事故以来、父親・母親・次男のそれぞれの弱みが露わになり、関係もちぐはぐになり、家庭が崩壊していく過程が、パッヘルベルの「カノン」のBGMをバックに静かに描かれています。事なかれ主義で気の弱い父親、冷淡で他人と協調できない母親、繊細で感受性豊かな次男、それぞれの悩みが繊細に表現されています。昔のアメリカ映画は、郊外の高級住宅街に豪奢な邸宅を構える「WASP」の上流家庭を「理想的に」描いたものが多かったようですが、現代はその「家庭像」は機能不全になって崩壊してるようです。似たようなケースの映画に『スタンド・バイ・ミー』があります。主人公のゴーディが、歳が離れた兄を事故で亡くして、その影響から両親からも冷遇されて、トラウマになっています。
1980年当時、精神科でカウンセリングやセラピーに通うことは、まだまだ社会的に偏見の目で見られることが多い時代でした。しかしこの作品が大ヒットし、アカデミー賞を席巻したことにより、「心の病は誰にでも起こり得るものであり、専門家の助けを借りることは決して恥ずかしいことではない」という認識が、アメリカ社会に広く浸透していく大きなきっかけとなりました。
安易なハッピーエンドに逃げないで、残酷なまでに描き切ったラストは、時には離れて暮らすことが、お互いの心の救済になるという、厳しい現実を描いた秀作だと思います☆
追伸:小説家の綿矢りさが、お気に入りの映画に、この作品を挙げています。
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